そういえば,いつからかパブリックコメント(パブコメ)という言葉を聞くようになりました。調べてみましたら,平成6年(1994年)に施行された「行政手続法」という法律に定められているそうです。私はこれまでに3回,パブコメを注目したり,その提出に関わりましたので少しだけ紹介します。

①2005年
生命保険会社にいた時に,骨髄バンクのことを紹介したTV番組(プロジェクトX)を見て感動し,骨髄ドナーに選ばれた人が骨髄液採取手術をした時に,生命保険の入院とか手術の給付金が出るようにしたらいいのに。と思い,そんな提案書を作成して当時の社長に直接提出しました。 何で?と思われるかもしれませんが,これまでは骨髄ドナーとして骨髄液採取手術を受けても,自分の病気ではないから入院や手術の保険は適用されなかったのです。それを変えようとした訳です。
ドナーになった方にお金を。というのは,善意に対して失礼という意見もありましたが,派遣社員や自営業の人にとっては,4日間休んで骨髄液採取手術を受けるのはハードルが高いこと。それよりも,保険会社がドナーの決断を応援するということが,受け入れられたと思います。
骨髄ドナーになるということは,HLA(ヒト白血球抗原)という血液の型が合わなければならず(非血縁者間だと数百人~数万人に1人しか適合しないと言われている)保険に必要な偶然性の上に成り立つから良いのではないか。ドナーが増えれば,時間切れで生きるチャンスを失う人を救える。ぜひ保険会社がドナーを応援しよう。保険が変わると人の命を救うことができる。掛け金は0円。そんな話をしていました。
でもこの提案は,法律が定める「保険とは」という定義を覆すものでした。つまり法律を変えなければ,実現しないという大きな壁がありました。提案してから3年かかりましたが,多くの皆様のお力と,幸運の女神のおかげで2005年に保険業法という法律の改正に至ることになりました。その法律の改正にあたり,金融庁がパブコメを募集しました。この時にパブコメというものの存在や仕組みを知りました。その後すぐに法律改正が行われ,骨髄ドナー給付特約(DNB:ドナー・ニーズ・ベネフィット)という名前でリリースされました。(実は,私から「ウィッシュ・リレー・ベネフィット」(WRB)希望を繋ぐ給付特約という,おしゃれな商品名を提案したのですが,残念ながら不採用)
当初から特定の保険会社だけの特約ではなく,日本中の保険会社に波及させてこそ意味があるという発想でしたので,現在たくさんの生損保会社や共済にまで波及している姿や,地方自治体でもこのような仕組みを作っていることを聞きますと,どこにいらっしゃるのか分かりませんが,この法律改正によって生きるチャンスを得た人がいるとすれば,とてもとても嬉しく思います。

②2016年
法務省から「民法(相続関係)等の改正に関する試案(中間試案)」が発表されました。法制審議会民法(相続関係)部会の議論が一旦まとめられたということです。これに対して,現場の実務者の声を届けようということで,一般社団法人日本相続学会では民法改正ワーキングチームが結成され,約2カ月ほどでパブコメをまとめました。私達の共通する理念は「円満かつ円滑な相続」の実現です。そして40ページ余に及ぶパブコメが完成。12名の弁護士,大学の先生,その他の実務者の皆さんの大きな力が結集しました。私は全体のお手伝いが中心でしたが,いつまでも続く議論と校正に翻弄されながら,提出期限に間に合うかどうか,随分心配しました。
日本中から167件(個人111件団体56件)の意見があったそうです。しばらくすると,法務省からパブコメの内容をまとめた報告書が発表されました。報告書の中に提出した団体名が何回出てくるかカウントしてみましたら,日本相続学会は,なんと56団体中10番目でした。法律改正の議論に対してきちんと意見を提出するという体験でした。

③2017年
前年の中間試案に対し,多くのパブコメが寄せられ,反対する意見が多かった部分を修正したり,新たな部分を加えた「中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)」が法務省から発表されました。一般社団法人日本相続学会は,早速,民法改正ワーキングチームを復活し,新たなパブコメの作成に着手しました。今年は約1カ月半ほどしか時間がありませんでしたが,昨年の例がありますので,第一案はわりと早く出来ました。しかし,ここから何回も校正や修正が続きました。チームで決めたスケジュールの期限を越えてもまだ修正が続きました。結局締切2日前にまとまり,締切の当日に20ページに及ぶパブコメを,法務省に送ることが出来ました。
もちろん,私は今回も全体のお手伝い役ですが,ワーキングチームで座長をしていただいた弁護士の先生は,途中で妥協を許さず,最後の最後まで粘るという方です。感服です。もし弁護士さんを探している人がいたら,ぜひご紹介したい先生ですね。
法務省の報告書はまだこれからですが,法制審議会の議論では気が付いていないと思われる点を指摘し,新たな提案もしています。前回よりもさらに深い内容となりました。皆さんのおかげで,またすばらしい体験をさせていただきました。