昨年11月5日
・自民党法務部会は,結婚していない男女の間に生まれた子(婚外子)の遺産相続に関する格差規定を削除する民法改正案を了承。これにより,同改正案は12月5日に国会で成立した。
一方,自民党法務部会は,出生届に嫡出子か婚外子かを記載するよう義務付けた規定を削る戸籍法改正案に関しては,違憲判断の対象になっていないとして了承しなかった。この結果,戸籍法改正案の提出は見送られることになった。部会では,伝統的な家族観を重視する出席者から「最高裁の暴走だ。そこまで(法律を)変える権限は与えられていない」「堂々と不倫して子どもをつくってしまう」などと異論が続出した。自民党内保守派との論争があったのはご存じのとおり。
最終的には,戸籍法の改正を見送り,相続法制の在り方を検討する組織を法務省と自民党にそれぞれ設置し,連携して1年を目途に「家族の絆を守るための諸施策」を取りまとめることで折り合った。自民党は法務省に対し,法律婚尊重の観点から配偶者を財産的に保護する方策を検討するよう求めた

昨年12月6日
・法務大臣は,婚外子相続格差規定を削除する改正民法が成立した翌日の記者会見にて,
「今回の民法改正でいろいろな御議論がございました。この民法改正が及ぼす社会的影響に対する懸念であるとか,あるいは配偶者の保護の観点から相続法制をよく見直す必要があるのではないかなど,様々な問題提起がございました。
それから,国会外でもそういうような御意見がたくさんあったわけですが,国会の審議におきましても,相続に伴う配偶者の居住等をどう保護していくかという問題など,複数の議員から関連質問があったところです。こういったことを踏まえて,法務省では,今回の最高裁判所の決定及び民法改正の影響について,その実態把握をしっかりやらなければならないということが1つございます。その実態把握を十分にやった上で,相続法制等の在り方について検討を進めるためのワーキングチームを直ちに設置 しようということです。速やかに,今,ワーキングチームを立ち上げることができるように作業を進めているところです。」

昨年12月19日
・自民党は,「家族の絆を守る特命委員会」の初の会合を開き,役員体制の確認と今後の検討テーマやスケジュールについて審議。
また,この委員会の顔ぶれが興味深い。委員長には古川俊治(参:弁護士)、委員長代行には赤池誠章(参)、委員長代理に佐藤ゆかり(参:内閣部会長)・西銘恒三郎(衆:総務部会長)・大塚拓(衆:法務部会長)・菅原一秀(衆:財務金融部会長)・丹羽秀樹(衆:文部科学部会長)、丸川珠代(参:厚生労働部会長)・山際大志郎(経済産業部会長)らが就任し,他に10名以上の委員で構成される。法務部会での党内議論で最後まで異論を唱えた赤池氏が委員長代行。法務部会長の大塚氏の奥さんの丸川珠代氏の顔も。

本年1月7日
(新年最初の)法務大臣閣議後記者会見
「~~最近では最高裁判所の決定等を受けまして,相続法制の在り方等,課題が山積しているわけです。~~」

本年1月28日
・法務省は,「相続法制検討ワーキングチーム」の初会合を開き,遺産分割の際に考慮される配偶者の貢献内容を見直す方針で一致した。現行制度でほとんど勘案されない家事や介護について相続に反映させる方向で見直しを行い,2014年夏に中間報告をまとめ,民法改正に向けて2015年1月の新制度案策定を目指すとのこと。チームには女性委員を4名登用し,家族法の研究者や弁護士ら14人で構成。座長には民法や家族法に詳しい大村敦志東大教授が就任。

【検討課題の概要】
・遺言相続に関する問題点の指摘
○被相続人が特定の相続人に家業を承継させる遺言をしても,遺留分の存在によりその意思が実現しない可能性があり,対策が必要ではないか。
・法定相続に関する問題点の指摘
○法律婚の尊重の視点から配偶者の法定相続分の見直しが必要ではないか
○現行の寄与分の制度では,夫を支えてきた妻の貢献を十分反映できていないのではないか
○配偶者の父母の介護などをしてきた者には,その父母の死亡に際して相続人とならないが,貢献を反映させる必要があるのではないか
○遺産分割により,配偶者が居住していた建物から退去する事態が生じ得るため,居住権保護の方策が必要ではないか。

今まで動かなかった重い大きな扉が動き出そうとしているような変動が始まりました。そしてそのきっかけは上記のように意外なところからでした。日本相続学会の研究大会で,つい先日議論した「介護と相続」や,日本相続学会の「家族を守る”円満かつ円滑な相続”」という視点が,ほぼそのまま持ち上げられたような思いです。
法律の改正までは,少なくても2年以上の時間がかかるようですが,国民の方向を向いた素晴らしい議論を期待したいと思います。