頼まれて日本相続学会の誕生についてまとめましたが、原稿がボツになりました。せっかくですのでこのブログで復活させておくことにします。

1991年に生命保険セールスマンに転身後、2年ほど経った頃から相続対策や事業承継対策に興味を持ちました。相続対策と言っても、最初は納税や節税対策を目的にした相続税対策しか提案できませんでした。それでもお客様には喜んでいただき、たくさんのご紹介をいただくことが出来ました。
そんななか、頻繁に改正される税制に右往左往している自分の姿に疑問を感じながら、経験を積んでいくうちに、相続争いにならないことを目的にした、民法上の対策を提案しなければ、保険屋としての本当の存在理由がない。と思うようになりました。
相続争いをきっかけに家族が断絶していく姿は、実に痛々しいことです。若い時に「家族とは・・・、福祉の第一次的追求集団・・・」*1という定義を勉強したことがあり、心に残っていたのがベースになっていたと思います。また、同時に家族で解決できる問題を行政サービスや、民間サービスなどによって、際限なく社会が負うことは正しいのだろうかという、漠然とした疑問を持ちながら生命保険セールスマン20年を迎えていました。

2011年3月、東日本大震災が起き、現地にボランティア活動の場を求めましたが、現地で私に出来ることは限られていました。自問自答するなかで「相続学」という新しい学問領域を創り、「円満かつ円滑な相続」を社会に普及することを目指した活動をイメージし始めました。幾種類もの実務者、研究者、関係者が横断的に集まり、現行のルールのなかで考えられる「円満かつ円滑な相続」のための工夫を議論し、研究成果をきちんと文字で発信する。さらに政策提言も視野に入れた活動です。
早速、日本相続学会(仮称)と名付け、設立趣意書をまとめました。2011年夏、その設立趣意書を握りしめ、東京の有名な弁護士事務所に協力のお願いに伺いました。そして有りっ丈の力で直球を投げました。有り難いことに先生に正面から受け止めていただき、ここから設立に向けて中心となっていただける方を求め、しばらくの間、東京での行脚が続きました。

そして2011年11月8日、六人の有志が虎ノ門に集まり、日本相続学会の設立について話し合ったのが本学会の始まりです。その時の様子は、まさに六人の坂本龍馬が口角泡を飛ばし、熱く日本の将来を語るという場面でした。その後一年間、設立準備会として議論を重ね、2012年11月に任意団体として設立し、同時に設立記念リレーセミナーを開始しました。毎月のセミナー開催は、会員の増員を図りながら、本学会の目指すところや、その射程範囲をセミナーの全体構成に反映させる試みが行われました。

2013年9月に法人格を得て、一般社団法人日本相続学会となり同年11月には学会誌第一号を刊行し、2日間にわたる第一回研究大会を成功させることが出来ました。その後、相続税法改正の施行、さらに非嫡出子の相続分に関する最高裁判決、それを受けた民法改正、相続法改正を視野に入れた法制審議会がスタートするなど、本学会の活動は図らずも社会の大きな関心事と重なっていくことになりました。
東海ブロック・関西ブロック・甲信越ブロックが発足。研究部会、地方部会に加え、広報出版部会、研修部会等、基礎的な運営体制を整備しつつあり、現在は会員数200名を超えました。(会員の職種別構成は、弁護士・税理士・保険関係・不動産関係が各々20%前後、その他の職種で約20%)2015年11月には「相続・原点追究」をテーマに掲げ、第3回研究大会を愛知県犬山市で2日間にわたり開催する準備を行っています。今後、さらに新しい情報発信を行おうとしています。

本学会には二つの大きな使命があります。一つ目は、現行のルールのなかでいかに工夫したら「円満かつ円滑な相続」を迎えることが出来るのかという研究です。実務者中心の本学会は、それぞれに持つ無数の事例情報を積み重ねるという業際的視点に、学際的視点からのご協力をいただき、たくさんの答えを見出そうとしています。そしてその成果を素早く、広く国民に公開するという使命です。
二つ目は、新しいルールを政策提言していくという使命です。相続に関する現行のルールのうち、既に国民生活の実態に合わない部分については、よく議論したうえで本学会ならではの提言をしていくことが必要であると考えています。

また、本学会は会費を支払って、じっと待っていれば何かのサービスが自動的に提供されるという会ではありません。学ぶステージに立てたというのが相応しい表現だと思います。真っ赤に燃える炭の中に身を投じ、周りから熱を貰いながら成長するということではないでしょうか。会員が増え、私たちの活動がさらに充実したものになることは、比例して多くの国民生活の幸福に貢献できると信じています。

*1
家族とは「夫婦・親子・きょうだいなど少数の近親者を主要な構成員とし,成員相互の深い感情的包絡で結ばれた,第1次的な福祉追求の集団である。」(森岡・望月編『新しい家族社会学』培風館,1983) 近著によると下記のように改訂されている。
家族の定義:「家族とは、夫婦・親子・きょうだいなど少数の近親者を主要な構成員とし、成員相互の深い感情的係わりあいで結ばれた、幸福(Well-being)追及の集団である。」(森岡清美・望月嵩編『新しい家族社会学』四訂版 培風館,1997)