遺言者によって斜線が引かれた遺言書が有効か無効か?(無効!:最高裁)

自筆証書遺言作成については、民法968条やこれまでの判例によって厳格に決まっています。それは遺言者の意思を守るとともに、遺言者以外の者の意思を排除するためでもありますね。

また1024条は遺言書の破棄について決めています。これも遺言者の意思で破棄されたのかが大事なところです。破棄は遺言書を燃したり破いたりすることだけではなく、文面を抹消する行為を含むので、文面の一部を塗り潰したりすれば、その部分は破棄したことになるということですね。問題は斜線や線を引いて文字を消してある場合で、下の文字が判読できる場合です。*字抹消・*字挿入+印鑑というように968条にあるような訂正がきちんとされていない場合には、不十分な改変として元の文字が効力を持つというのが通説でした。

今回の判決は、下の文字が判読できる場合でも故意に斜線を引く行為は破棄に該当する。今回は全体に斜線があったので遺言撤回という判断がなされたということ。これは遺言の改変なのか、破棄なのかという点で破棄であるということでした。

ここで着目したいのが、遺言を残した人の意思を形式にとらわれず尊重しよう。と判断されたところではないでしょうか。一歩前進したように思います。諸外国に比べ、かなり原始的な方法でしか認めていない現在の遺言書作成の要件を実態に合わせていくことが必要です。よくタイプライターやワープロで書いたものは×と解説されますが、この二つは最近見たこともないですね。ビデオも×です。カナダではビデオでもOKという話を聞いたこともあります。ちゃんと公正証書で遺言を作ることはもちろん大事ですが、無用な相続争いを減らすためにも、そろそろ国民生活の実態に合わせることを検討すべきですね。

さてさて今回のお話しに戻りますが、2002年に男性が死亡した後に封書が見つかり、「開封しないで知り合いの弁護士に相談するか家裁に提出して公文書としてもらうこと」と付箋(ふせん)が貼ってあった。しかし封は一度開いた後にのり付けされ、中に入っていた遺言書には赤いボールペンで文書全体に左上から右下にかけて斜線が引かれていた。このため、娘が息子を相手取り、遺言書は無効だとする訴訟を起こした。という背景もあったそうです。今回の裁判では、斜線を引いたのが本人かどうかという点は争いになりませんでしたので、斜線は本人が引いたことを前提としていますが、もし斜線の筆跡について争いはじめたらどうなるのでしょうか?(そんな心配しなくてよい?)

相続人の皆さんは、これから遺産分割協議をすることになるのでしょう。それにしても、ここまで来るのに13年という月日がかかっている事実を見過ごしてはいけないですね。