●大会シンポジウムテーマ「次世代に何を相続させるか」
シンポジスト
○松沢哲郎氏:京都大学霊長類研究所教授 ○常岡史子氏:横浜国立大学大学院教授 ○延澤栄賢氏:真宗大谷派東京宗務出張所次長 ○林 直子氏:FPオフィス結yui代表
コーディネーター ○伊藤久夫氏:日本相続学会 会長
(伊藤)今回は,目に見える・見えない財産+ハード・ソフト・ファンドという視点から相続を考えてみましょう。右図掲出。
(延澤)私が所属する真宗大谷派では「今,いのちがあなたを生きている」というテーマを掲げている。「生命」が個々の生命体が持つまさに命であるのに対し「いのち」は個々の命の背後にある。「いのち」は自分ひとりのものではない。
(常岡)相続財産は相続人らが共同で相続するのが原則ですが、その例外として祭祀財産は一人の者が受け継ぐことによって分散を防ぎ、祖先の祭祀を継続していくことをねらいとしています。「家」という観念は現代ではもはや薄れているでしょうが、祖先を祭るという感覚は日本人のなかにまだ厳然と存在し、法律もそれを前提として相続人間での不毛の争いを回避するために裁判所が介入することを許しているとも言えるように思います。
(林)親が「生きざま」「老いざま」「病みざま」そして,最後に「死にざま」を見せることで、子は、やがて自分の身に起きることを学習するのではと思います。
(松沢)提示された図のハード・ソフト・ファンドを身体・文化・文明と言い換えてみてはどうでしょうか。空白になっている「見えるソフト」には,まさに宗教・習俗・伝統というものが入ると思います。このソフトは人間だけが持つ分野でもあります。個々の財産という発想だけではなく,日本全体の財産,世界全体の財産というように大きく思いを巡らせることがヒントになると思います。また,相続の実務に携わる皆様が,その実務に軸足をおきながらもこのように集い,改めて相続とは,人間とは,と考えることは,とても貴重なことであると思います。